このちゃんとデート〜2人の絆〜


「ええっ、デ、デート!?」
桜咲刹那は素っ頓狂な声を上げてあえいだ。
「せやせや、デートやデート♪なあなあせっちゃん、今度の休みに行こうや〜。」
 このかにせがまれ、またアスナが「行ってあげなさいよ。」と言うものだから、刹那はしぶしぶ了承した。
いや内心は飛び上がりたいほどうれしかったのだが。
(このちゃんとデート、このちゃんとデート…はうううう…)


このちゃんとデート〜2人の絆〜


 街の中を二人で並んで歩く。
並んでいるだけではない。
手を繋いでいた。
このかはニコニコ顔、刹那は顔を真っ赤にしてうつむいている。
「せっちゃん、なんかこうして歩いていると恋人同士見たいやな〜。」
 知ってか知らずかこのかは刹那にとって過激な発言をする。
「こ、このちゃん。こ、困りますそんなことを…。」
「なんで?」
 とぼけたような表情でこのかが答える。
 2人は映画を見た。
このかの希望で今ヒットしている純愛モノだった。
若い男女が苦難を乗り越え結ばれるというありきたりな内容。
まるで生クリームたっぷりのデコレーションケーキにさらにグラニュー糖やチョコレートスプレー、シロップやハチミツをぶっかけたようなあま〜いあま〜い物語だった。

 ファーストフードで軽食を取った後、2人はしゃれた洋服店へ入っていった。
その様子を隠れながら見ている影があった。
例によって、このからのクラスメートたちである。
和美「おおお、服屋かこれは…なるほどね。」
あやか「あ、朝倉さん。何がなるほどなんですの?」
千鶴「うふふ、あやかったら鈍いわね。耳かして。ごにょごにょ。」
ハルナ「うひひひ…これはゴールインが近いよ。うんうん。」
アスナ「ちょっと、見えないでしょ。あけてよ。」
夕映「………」
桜子「私たち応援団の出番も近そうだね。」
美砂「そうね。楽しみー♪」
円「ナハハハハハ…(汗」
 総勢9人。鋭い感覚を鍛えられた刹那ならすぐ気配に気づきそうだが、常に極度の興奮状態が続いており、まったく気づいていない。30分程して2人が出てきた。
さっきと服装が違う。
2人とも色違いのペアルックを着ていた。
ハルナ「これは、もう決まりでしょ?」
和美「決まったな…これはもう2人を遮るものは何も無い。二ヒヒヒヒヒヒ…。」
アスナ「あっ!みんな見て。」
見るとこのかがちょうど刹那にくっつくところであった。
「あはっ!」
このかが刹那の腕に自分の腕を絡めた。
「はうううううう…。こ、このちゃん…だ、だめです…だめー。」
刹那の頭から蒸気機関車のごとく煙が噴出す。
もう目がぐるぐる回って混乱状態だ。 「大丈夫かえ、せっちゃん?」
「だ、大丈夫じゃなさそうです…このちゃんとペアルックなんて…そんな過激な…うーん…」
「わわわ、せっちゃん。」

 このかは刹那を静かな公園へと運んだ。手ごろなベンチに腰を下ろす。
「はぁぁぁぁぁ…疲れてしまったようです。ゆうべなかなか寝つけなかったもので…。その、今日が楽しみで…。」
「あは。うれしいことゆうてくれるなせっちゃん。そんなら少し横になって寝たらええ。1時間位したら起こしたるえ。」
「はい、すみません。それではお言葉に甘えて…ふぁぁぁぁぁ…」
 普段刹那はこのかを守るという使命感に駆られて決して居眠りなどしたりしない。
実は眠れなかったのはゆうべでだけではない。
このかにデートに誘われてから、3日間興奮のため一睡もできなかったのだ。

 このかはしばらく刹那の寝顔を眺めていたが、ふと思いついた。そしていたずらな笑みを浮かべると、刹那の頭をそっと持ち上げて自分の膝の上に乗せた。いわゆる膝枕だ。そう、ひ・ざ・ま・く・ら。 この場面を尾行中の一同が見逃すはずはなかった。
和美は夢中でシャッターを切る。
ハルナはビデオをまわす。
と不意にピカッと光った。
暗くなりかけていたので、和美がうっかりフラッシュをたいてしまったのだ。
 驚いてその方向を見るこのか。
刹那も眩しくて目を覚ましてしまった。
「あ、あれ?みなさんなぜここに…へ?」
刹那は自分の状態をやっと把握した。
このかに膝枕してもらっている…。桜子がその場をごまかすように言う。
「や、やっほー!私たちは2人のこと応援するよ。うんうんうん。そーれ!フレーフレー…」
 刹那の中で何かがはち切れた。
「きゃーーー!!い、いやーーー!」
 全身が完熟トマトと化した刹那は猛スピードで走り去っていった…。

ズダダダダダダダダダダー!!


刹那は世界樹のある場所から広大な敷地の学園を眺めていた。
何度もため息をつく。
このかのことが頭から離れない。
もう辺りはすっかり暗くなっていた。
月の綺麗な夜だった。
不意に視界がなくなった。
「だーれだ!」
「…このちゃん?」
「アハハ、当たりやえ♪」
「………」
押し黙る刹那にこのかは心配そうに話しかける。
「ゴ、ゴメンなせっちゃん、かんにんな。ウチちょっと悪ふざけしすぎたわ。せっちゃんの気持ちも考えんと…。なあせっちゃん…怒ってる?」
すると、刹那は満面の笑みで首を振った。
「いいえ、とんでもありません。今日このちゃんと遊びまわって本当に楽しく過ごせました。」
「せっちゃん…」
このかにも笑顔が戻った。
このかは刹那にねだるようなしぐさで頼み事をしてきた。
「なあ、せっちゃんお願いがあるんや。ウチをお空の散歩へつれてってくれへんか?」
「ええ!?でもそれはさすがに…いくらもう夜だからといっても誰かに見られでもしたら…」
「やっぱり迷惑やったたろか?ごめんな無理ゆうて。修学旅行のとき一緒に空飛んだんが忘れられへんでな…。」
このかが寂ししそうな表情で言った。
刹那は決心した。
「分かりました。行きましょう、空の散歩へ。術を施せばある程度は人の目もごまかせるでしょうし。」
「ほんとかえ!?わーい、ありがとなせっちゃん。」
刹那は辺りに人がいないのを確認し、このかをお姫様抱っこすると翼を広げた。
そして深呼吸するとふわりと空に舞い上がった。

学園の景色が遥かかなた下に臨める。
月の美しさも申し分ない。
「うわあ…。ほんま綺麗やえ。」
しばらく飛び回っていた。
刹那はふとあることに気がついた。
このかの顔が刹那の顔の至近距離にあったのだ。
このかの吐息が刹那の顔にかかる。
胸の鼓動がどんどん速まってきた。
刹那はしだいに息が詰まってきた。
視界はグルグル、耳もよく聞こえなくなってきた。
いけない、このままでは気絶して上空から落ちてしまう。
刹那は世界樹の広間へ戻ってくると、着地を試みた。
ところが緊張のあまり一瞬意識が飛んでしまう。
「はううううう…。」
「えっ!せっちゃんしっかりしてや!」
「はっ!」
かろうじて意識を取り戻した刹那は地面に衝突するギリギリで体勢を立て直した。
ゆっくりと着地し、このかをおろす。

「はああ、やっぱり気持ちよかったえ。景色も綺麗やったし、もう最高やったえ。最後はスリル満点でほんま楽しかったえ。」
1歩間違えれば命も危なかったのに、能天気なこのかであった。
刹那はため息をついていたが、このかの笑顔を見ると微笑むのであった。
2人は互いの顔を見合わせると大笑いした。
本当に素晴らしいひと時であった。

「………ん…うん…う〜ん…ふぁぁぁぁ…朝か…。」
まだ外が薄暗く、これから明るくなるだろうという時間に刹那は目を覚ました。
まだボーっとする頭。
顔を洗おうとベッドから降りたときだった。
「せっちゃん、おはよう。目玉焼きとスクランブルエッグ、どっちがええ?」
「!?!?!?」
満面の笑みで刹那に挨拶したこのかを見て、刹那は一瞬何がどうなっているのか分からなくなった。
返事をするのも顔を洗うのも忘れて目をぱちくりさせていると、このかが笑顔のままでこう言った。
「あはは、ややわーせっちゃん。誰にも邪魔されず二人っきりで話せるように、アスナが一晩部屋を換わってくれたんやろ。」 「あ…そうでした…」

          *

あの後、刹那はアスナの厚意でこのかと一晩同じ部屋で寝泊りする運びとなった(もちろん他人には内緒で)のだ。
その夜、二人の会話の内容は大方このようなやり取りだった。
このかはまず、刹那に悪ふざけしてしまったことをもう1度わびた。刹那はもう気にしてないと答えた。
「あはっ、せっちゃんと二人きりで寝るなんてほんま久しぶりやえ。」
 ニコニコしながら話すこのかに刹那はもうタジタジ。二人は二段ベッドではなく、布団を床に敷いて並んで寝転がっている。
「す、すみません…その、あれから剣の修行で忙しくなってしまって…遊びに行けなくて…その…」
「…忙しかっただけとちゃうかってんな……」
ふと切ない表情になったこのか。
「もうしわけありません!!本当に騙すつもりなんてちっとも…」
しかし、このかは優しい表情でこう返した。
「なんでせっちゃんがあやまるん?たとえハーフでもせっちゃんはせっちゃんやえ。他の誰でもないんや。
せっちゃんはほんまええ子やのに、妖怪の血が流れとるとわかったら悪い子になってしまうんかえ?そんなわけないやん。ウチの知らんとこでいろいろ苦労したんやな。
でも何があっても誰がどう言おうと、ウチはせっちゃんの味方やえ。」
「このちゃん…うっうっ……」
気づいたとき、すでに刹那は大粒の涙を流していた。
刹那は泣いた、本当に久しぶりだ。
それもだれよりも大好きな友の前で。

昔、川に落ちたとき彼女を救えず、泣いてしまったことがあった。あの時誓った。このかを守れる強さを手に入れようと。
そして、どんなにつらい修行も乗り越えてきた。
このかや他の子たちと遊ぶことも話すこともなにもかも押し殺して。
毎日ぼろぼろになって厳しい稽古にいそしんだ。
それでもこのかのためにこのかのために、と自分の体に鞭打ってここまで来た。

しかも、一緒にいられなかった理由はもう一つあった。
烏族のハーフだということ。
このことをを理由に心無いものにたたかれたことも少なくない。
自分の正体を知られたら…このかに嫌われてしまうかも…そう思うと、このかをどうしても避けてしまう。
このかと同じクラスになったときは正直気が気でなかった。
こうしてこのかを“身分の違い”という理由を建前にし、陰から見守るという方法を取り続けてきた。
しかし修学旅行を通して、本当にこれがこのかのためになっていたのかどうか疑問に思うようになった。
このかも自分と同じように孤独を味わい続けてきたのではなかろうか。
そう考えると、彼女の気持ちを理解していなかった自分が、正体がばれるのを臆してばかりいた自分が、このかを心から信頼できていなかった自分が不甲斐なかった。
刹那は長い間このかの胸で泣いた。おそらくこれまでで一番激しく…。
「ごめん、ほんとにゴメンね、このちゃん…。今まで寂しい思いをさせてしまって…。」
「ええよ、せっちゃん…。でも、約束してや。これからはずっといっしょにいてな。もう、一人ぼっちはゴメンやえ。」
「うん…絶対に…。」
その夜二人は長い間いろいろなことを語り合った。
幼い頃の思い出話、現在の取り留めの無い世間話から将来の夢まで。

          *

「あの…昨晩は…ごめんなさい、このちゃん。みっともない姿を見せてしまって…。」
「ははは、気にしてへんて。全部打ち明けてくれて嬉しかったんやえ。それにしても昨夜のせっちゃんはほんま激しかったえ。ポッ…。」
 みるみる青ざめていく刹那。
「あわわわわ…ま、まさか…私はこ、このちゃんにその…変なこと…を…。」
 このかはおどけて答える。
「何のこと?ほんまに激しく泣いとったな〜って、意味やえ。」 「もー、このちゃん!」
「ははは、スマンスマン。そんで、目玉焼きとスクランブルエッグどっちがええ?」
「じゃじゃあ…ス、スクランブルエッグを…。」
「了解〜♪あはっ、なんか新婚さんみたいやえ。」
「だ〜か〜ら〜…。はぁ……フフフ…。」
刹那のたった一つの願い…それはこの世で一番大好きな大親友――近衛木乃香とずっと一緒にいることだった。
それは守りたいという意味合いだけでなく、仲良しでいたいということでもあった。

こうしてすべては丸く収まった…かというと、まだクラスメイトのことが残っていた〜。
こちらも尾行したメンバーが必死に刹那に謝罪し、撮影した写真やビデオを処分することでいちおうは解決した。
このかは残念がっていたが…。

ところで、このかの机の中に刹那と空を飛んだときの写真が大事にしまわれていることを刹那は知らなかった(撮影者はネギとアスナ。このかが密かに頼んでいたのだ)。
大きな月を背にして飛ぶ2人。
それは世にも美しい絵画であった。
刹那がその写真の存在を知るのは…少し先のこと…。
                  Fin. しかし…実はまだ…

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